悲しみ、怒り、寂しさ、恐怖、不安などネガティブな感情は人間が生きて行く上で行動を決めるなどの役割があり、必要な感情ですが、コントロール出来ないと感じるような感情は、私たちにとって、とても負担なものになります。
特に、過去や未来について意識がとらわれている場合、その感情は強さを増すかもしれません。というのも、私たちがコントロールできるのは「今」だけだからです。本来コントロールできないところを、コントロールしようとするので、余計なエネルギーと時間を使ってしまい、疲れきってしまうのです。
今、現在を感じるために、カウンセリング、心理療法、ヨガなどでも注目されている「マインドフルネス」の考え方について紹介したいと思います。マインドフルネスでは、「感情をコントロールしようとせず、そのままに」します。そうすることで、気づきを得られ、自己コントロール感が結果的に増すのだと考えられています。
マインドフルネスとは
マインドフルネスとは、最近、いろいろなメディアにも取り上げられていますが、実は、古くからある概念です。仏教、同郷、ヒンドゥー教、イスラム教、ユダヤ教、キリスト教など、挙げだしたらきりがないほど、さまざまな精神的、宗教的な伝統、文化のなかに根付いています。
マインドフルネスには3つの重要な点があります。
- マインドフルネスとは、「気づき」というプロセス:考えるというプロセスのことではありません。思考に巻き込まれるのではなく、今この瞬間、自分が体験していることに気づく、あるいは注意を向けることが必要です。
- マインドフルネスには、特別の態度も必要:オープンであることと好奇心。つらく受け入れにくい経験をしているとき、逃げたり立ち向かったりする代わりに、ただ心を開いて関心を向けるという選択肢をもてるということが必要です。
- マインドフルネスには注意の柔軟性も必要:注意の柔軟性とは、自分が体験していることのさまざまな面に注意を向けたり、注意する範囲を広げたり、集中させたりできる力のことです。
ここでは、感情を取り扱うための8つのエクササイズについて紹介します。
感情を受け入れる(アクセプタンス)
感情を受け入れるには、その存在にまず目を向ける必要があります。そして、心のなかに、その感情を置いておけるための準備をすること。そして、その感情をもっていることに抵抗しないこと。その感情を持っていることが、異常なことではなく、「普通のこと」、生きている上で必要なことと実感できることが大切です。
- 観察する:イスに真っすぐに座り、床に足をしっかりつけます。何度かゆっくりと深呼吸し、頭から足の先まで自分の身体を意識します。何か感情が強く感じるところはどこか、注意を向けます。考えが浮かんだら、通り過ぎる電車か車のようにそのまま行き来するのに任せます。注意に感情を向け続けます。その感情はどんな形をしていそうか、色は?軽い?重い?動いている?温度は?その感情に注意を向け続けます。
- 息を吹き込む:感情を観察しながら、そこに息を吹きこんでみます。感情の中やその周りに吹き込まれる息を想像してみます。
- 広げる:息を吹き込むと、あなたの心の中に空間が生まれます。その感情の周りを広くしてあげます。感情の周りにスペースを作ります。
- そのままにしておく:感情が今ある場所に存在することを受け入れられますか?ただ、感情がそこにあることを、そのままにしておいてください。その感情に抵抗したり、遠ざけたりしたいと思っても、行動に移さないで、ただそうしたいという感情があるということだけ意識します。
- モノ化する:その感情を1つのものだと思ってください。そのものはどのような形をしている>液体?固体?何色?透明?感触は?そのまま観察を続けて、そこにおいておいてください。
- 普通なことだと捉える:その感情はあなたが、心をもった普通の人間であるということを理解できます。人生には悩ませるものがあるということ、欲しい物と今もっている物との間にギャップがあるとき、感情が強くなるのです。
- 自分を慈しむ:どちらかの手を身体に感じるその感情の部分においてください。その手を癒しの手だと思ってください。泣いている赤ちゃんや子犬をあやすように、いたわるように、手から身体に感じる温かさを感じてください。感情を取り除こうとせず、心の中にスペースを作って置いてください。手をおろして、もう一度息を吹き込み、感情の周りを広げましょう。
- 意識を広げる:ここまで感情にのみスポットライトを当ててきました。今度は、その他の部分にも証明を当ててみます。身体に当ててみましょう。腕、足、頭や首を意識してみてください、感情に関係なく、腕や足を自由に動かせます。実際に動かしてみましょう。目を開けて回りを見渡して何が見えるか、きこえるか、確認してみましょう。
このプロセスを行うと、一時的に感情の激しさが和らぐかもしれません。しかし、「その効果はおまけで、目標ではない」のです。というのも、マインドフルネスというのは、感情をコントロールするものではありません。感情が和らいだ時も、強くなったときも、同じようにその感情を受け止めようとすることです。
その感情に抵抗しようとしないこと、「抵抗スイッチ」をオフにすることが必要です。「抵抗スイッチ」が入っていると、この感情を追い払おうとして、お酒を飲んだり必要以上にストレス発散の行動をとろうとしたり、この感情が表れたことについて、怒りや不安などさらなるネガティブ感情が湧くかもしれません。
「抵抗スイッチ」がオフになっていると、不安に対抗して時間やエネルギーを無駄にする必要がありません。先ほど挙げた8つのステップで、感情を受け入れる練習をしていくと、少しずつこの「抵抗スイッチ」をオフにできることが目標となります。
マインドフルネスの練習
マインドフルネスとは、あり方を示すものでもありますが、具体的な練習方法もあります。一番簡単なのは「呼吸」です。
- 背中を真っすぐに、床に足をしっかりとつけて、深呼吸をしてみてください。楽な姿勢で良いです。視線はどこか一点を見つめているか、閉じると良いでしょう。
- 鼻から空気が出たり入ったりしている感じを感じてください。出て行く空気の方が温かく、入ってくる空気は少し冷たいことを感じましょう。
- 胸も穏やかに上下しています。お腹も静かに膨らんだりへこんだりしています。鼻、胸、お腹どれでも良いので1つ選んで意識を集中させます。
- どんな感情や衝動、感覚がわき上がってきても、それがネガティブでもポジティブでも、そのままにしておき、呼吸に集中します。何度、気がそれても、何回でも呼吸に意識を戻していきます。
- 気が逸れることは普通のことです。注意がそれても、注意がそれたことに気づき、もう一度注意を呼吸に戻ることが必要です。退屈さやイライラ、我慢が出来なくなって来た時も同様です。その感覚を感じながらもそのままにし、呼吸に意識を戻します。
このように、呼吸1つとっても身体に感覚に注意を向け、思考や感情の変化に気づき、そのままにします。
これは、呼吸だけでなく日常生活のあらゆる活動において練習することができます。手を洗うこと、子どもと遊ぶこと、車の運転、庭の手入れ、散歩、アイロンがけ、入浴、歯磨き、何でも良いのです。
手を洗うのであれば、その水の感覚、水が流れる音、泡が指の間に膨らんで見えること、石けんの良い香りなど、視覚、触覚、嗅覚、聴覚、味覚など五感をフルに用いて感じてみましょう。
今と強くつながることで、感情を何とかしようという苦しい戦いや抵抗が弱まること、これが感情と向き合う上でとても大切なことです。