トラウマと脳の関係

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「トラウマ」という言葉は、今やアニメやドラマなどなどいろいろなメディアにも取り上げられていて、日常生活でもよく使われる言葉になってきました。ちなみに私がトラウマという言葉を知ったのは、小学生の低学年の時、家族で見ていた「金田一少年の事件簿」のアニメの中でした。

確か、アイドルのヒロインがマフラーを首を巻くのが苦手、ということがあり、その理由として幼少期に首を誰かに閉められたことがあるという「トラウマ」があるから、というストーリーだったと思います。その記憶は、はっきりと覚えていたわけではなく、ストーリー展開の中で、徐々に似ている状況が重なる中で思い出された記憶、というものでした。

同世代の方は、「雪夜叉」の回について覚えていらっしゃる方もいるかもしれません。

PTSDという言葉も耳にしたことがあるのではないでしょうか。Posttraumatic Stress Disorderの略語で、日本語では心的外傷後ストレス障害と言う名前になっています。このページをご覧になっている方の中には、ご自身が辛い思いをされて「これはトラウマでは?」「PTSDでは?」と苦しまれている方もいらっしゃるかもしれません。

交通事故、犯罪被害、自然災害など命の危険を感じるほどの重大な出来事によって恐怖を経験し、圧倒され、その体験の記憶が思い出されるなど、今現在も様々な症状に悩まされている状態だと考えられています。先ほどの、「金田一少年の事件簿」の話でも、やはり命の危険を感じた身体の記憶が現在につながっていました。

この「命の危険を感じるほどの重大な出来事」については、人によって捉え方が違うため、様々な考え方がありますが、ここでは深く突き詰めないこととしますが、大きく捉えて「過去の嫌な体験」をして心に傷が残ることと、脳の関係についてお話していきたいと思います。

目次

脳の三層構造

トラウマに関わる脳の部位には3つの構造が考えられています。理性的な脳の働きは脳全体の働きの約3割程度と言われており、その他の働きはより動物的な脳の働きが存在しています。

  • 理性脳(内側前頭前皮質;うちがわぜんとうぜんひしつ)・・・脳の中に入ってくる情報など様々な情報の監視塔のような役割を果たします。意識的に情報を観察し、予測し、行動を選択するような人間としての理性的な働きをします。
  • ほ乳類脳(大脳辺縁系)・・・ほ乳類としての脳。情動脳。6歳までに構成されてその後も発達を続ける。扁桃体、海馬、帯状皮質などから構成されます。情動にまつわる記憶等を参照して、理性脳に情報を伝えます。
  • は虫類脳(脳幹)・・・呼吸、瞳孔の調節、血圧の調節など、生命の維持に関係しています。

これらの脳の中でも、大脳辺縁系の「扁桃体」と「内側前頭前皮質」が非常に重要な役割を果たします。「扁桃体」は入力された情報の危険度などを判断する機能があります。「火災報知器」のような役割です。入って来た情報が煙か酸素なのか素早く判断します。「内側前頭前皮質」は大脳辺縁系で判断したことを元にとるべき行動などについて判断していきます。

通常の情報処理では、まず、視床と呼ばれる脳の部位に視覚や聴覚といった五感の感覚の入力がされます。次に、その情報が扁桃体に届き、海馬、帯状皮質と情報が伝わります。海馬や帯状皮質では過去の記憶から学んできていることなどを参照して情報を精査することを仕事としています。

その後、理性脳である内側前頭前皮質まで届くと、届いた情報を観察したり、結果を予測することで、適切な行動を選択することができます。この情報伝達のルートは「ハイ・ロード」と呼ばれています。

しかし、危険で驚異的な状況においては、「扁桃体」が入力情報の重要性の判断を行い、危険の有無を判断して通常の情報処理とは異なるルートをとって情報処理をする場合があります。「ロー・ロード」と呼ばれる情報伝達のルートです。

扁桃体が「危険だ!」と判断した情報は、扁桃体と海馬の情報のやりとりやその後の帯状皮質のやりとりをすっ飛ばして、理性脳である「内側前頭前皮質」に感覚情報が直接伝達されます。

そうすることで、実際に危険な状況下であれば、戦う、逃げるなどの適切な行動をとることができます。しかし、実は「扁桃体」は「誤作動」を起こすことがあるのです。「扁桃体」が誤作動を起こしてしまった場合、どうなるでしょう?

(扁桃体の誤作動については、「脳はなぜ誤作動する?(準備中)」の投稿も是非読んでみてください。)

危険ではない状況において「火災報知器」が鳴り響くので、本来なら安全な状況において不安や恐怖がわき上がります。そして、生命の維持のための役割をもつ脳幹が、全身の血圧を上げる、心拍数を上げるといった働きをします。こうして、過去の経験の恐怖の記憶が、身体症状として出てくることとなるのです。

トラウマを負った脳はどんな反応をする?

「扁桃体」から直接「内側前頭前皮質」に情報が届くという「ロー・ロード」を通った感覚情報は、海馬や帯状皮質などその他の脳の部位を通り抜けてしまうので、正常に記憶できず、視覚、聴覚、嗅覚といった五感の様々な記憶が孤立して記憶されることになります。

そうするとどうでしょう。過去に似たちょっとしたきっかけや状況において、その当時の感覚が急に脳で活性化することとなります。視覚で言えば、映像がありありと目の前に見える、皮膚感覚だと、その時の身体の感覚が生々しくその場にいるように思い出される、聴覚が活性化されればその音だけが耳に響き渡るといったことが起こります。

これを「フラッシュバック」と言います。脳の中に正常に記憶されていないために、過去の情報として脳が判断できず、生々しく感覚までもが思い出されてしまいます。どの感覚が強く出てくるかは、その記憶の質により異なります。こういった記憶は普段は出て来ませんが、脳の中に冷凍保存されているかのように、些細なきっかけで溶け出してしまいます。

フラッシュバックが生じている脳の働きについて、明らかになっていることがあります。トラウマ体験を思い出しているとき、人の脳は、左脳よりも右脳の働きが活発になっていて、扁桃体の活性化、視覚野の活動増加、ブローカ野(前頭葉にある言語中枢のひとつ)の活動の著しい低下が起こっていると言われています。

つまり、フラッシュバックなどトラウマ体験を思い出している時は、理性的で論理的な思考よりも身体の感覚として当時の情動の体験を同じように体験しています。「ロー・ロード」を通ってバラバラに記憶されたトラウマの光景や音、声、感覚を、脳は首尾一貫した物語にまとめあげることができないのです。

そして視覚的な記憶が活性化されやすいため、脳内で体験の映像が繰り返し流れ、その一方でその記憶について言葉に変換する機能は低下している状態なのです。トラウマを負った脳では、さらに時間の感覚を作り出す役割をもつ背外側前頭前皮質の機能低下、感覚器官からの情報を選んで取り入れる役割のある視床の機能停止も起こります。

「あれはあの時のことで今は安全だ」ということが理解できず、周囲の情報についてフィルターなく取り入れてしまうため、感覚の情報を取り入れしすぎてしまう、刺激が多すぎる状態になってしまいます。そのため、必要以上に危険を感じ、集中したり、注意を維持することが難しくなる状態になってしまうのです。

その状態を打破するために、アルコールや薬物の大量摂取に手を出す人もいるかもしれず、トラウマとこういった依存の関係も明らかになって来ています。

とってもとってもざっくりと言うと、トラウマを負った脳とは、理性脳が情動脳に圧倒されている状態であり、刺激をコントロールしきれず、脳が混乱し、今と過去が身体の感覚のレベルでが混ざり合っている状態だと言えるでしょう。

フラッシュバックが起こった時はどうすれば良いの?

フラッシュバックが起こった時は、「今現在の感覚」を取り戻すことが必要です。フラッシュバックが起こっている状態というのは、上記の通り、過去の状態に引き戻されている状態と言えます。この状態に陥っているとき、言葉でのカウンセリングによって、考えや感情の整理をしていこうとするのは難しいと考えられています。

それではどうすれば良いのでしょう。フラッシュバックとは、過去に引き戻されている状態であることから、「今、ここ」で何を感じているのか、何が見えているのかを感じているのか、身体の感覚を深めていくことが重要と考えられています。深呼吸、マインドフルネスやヨガといった身体感覚を介した取り組みがとても重要になります。

具体的なセルフケアの方法については、「感情に飲み込まれてしまうそうな時の対処方法(準備中)」の投稿を参考にされてみてくださいね。

 

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