不安については、「不安が強い」とは?の投稿で書かせていただきましたが、今日は精神科や心療内科において治療が行われている「不安症(不安障害)」について、お話ししてみようと思います。
不安症とは?
不安症のあとに(括弧書き)で「不安障害」と書きました。これは、現在日本で主に用いられている「DSM(Diagnostic and Statistical Manual of Mental Disorders);精神障害の診断と統計マニュアル」という診断基準の改訂に合わせて名称の変更が行われており、「不安障害」は改訂前の「DSM-Ⅳ-TR」での診断名になっています。
現在は、2013年に改訂された「DSM-5」が用いられており、不安にまつわる精神疾患について「不安症群/不安障害」と名付けられています。
現在、不安症の種類として、「分離不安症」、「パニック症/パニック障害」、「社交不安症/社交不安障害」、「広場恐怖症」、「限局性恐怖症」、「全般不安症/全般性不安障害」があります。
「分離不安症」は子どもに多く見られる症状と考えられてきました。例えば、家庭から幼稚園や保育園、または小学校入学など、家庭以外の場所に環境が変わる際に生じやすく、母親などの主な養育者など愛着対象となる人や家から離れることに極度の不安が生じる状態です。
「分離不安症」はDSM-Ⅳまでは、小児期に発症する症状として考えられていましたが、成人期に初めて発症する人も多く見られることから、現行の「DSM-5」からは「不安症/不安障害群」に移行しています。
このように、DSMでは新しくわかってきたことを積み重ねてアップデートしています。
なお、今まで、不安障害の下位分類であった「強迫性障害」は強迫症および関連症群として、「外傷後ストレス障害(Posttraumatic Stress disorder;PTSD)」や「急性ストレス障害」は「適応障害」とともに、「心的外傷およびストレス因関連障害群」として独立しています。
ここでは、主に思春期青年期頃に生じやすい、「パニック症/パニック障害」、「社交不安症/社交不安障害」について簡単にお話したいと思います。
パニック症/パニック障害
「パニック症/パニック障害」の定義(DSMー5)については、以下のようにまとめられています。
・繰り返される予期しないパニック発作
・ 少なくとも1回の発作の後1ヶ月間(またはそれ以上)、以下のうち1つ(またはそれ以上)が続いている:
(1) さらなるパニック発作またはその結果について持続的な懸念または心配(例:抑制力を失い、心臓発作が起こる、どうかなってしまう)
(2) 発作に関連した行動の意味のある不適応的変化(パニック発作を避けるような行動)
・その障害は、物質(薬物)または他の医学的疾患(例:甲状腺機能亢進症)によるものではない
・ その障害は、以下のような精神疾患ではうまく説明されない。
社交不安症、心的外傷後ストレス障害、分離不安症
American Psychiatric Association(監訳:高橋三郎、大野裕、訳:染矢俊幸、神庭重信、尾崎紀夫、三村將、村井俊哉)、「DSM-5 精神疾患の分類と診断の手引」、医学書院(東京、2014)
なお、パニック発作とは、以下のような身体症状として、まとめられています。
「パニック発作とは、突然激しい恐怖または強烈な不快感の高まりが数分以内でピークに達し、その時間内に、以下の症状のうち4つ(またはそれ以上)が起こる。
1 動悸、心悸亢進、または心拍数の増加
2 発汗
3 身震いまたは震え
4 息切れ感または息苦しさ
5 窒息感
6 胸痛または胸部の不快感
7 嘔気または腹部の不快感
8 めまい感、ふらつく感じ、頭が軽くなる感じ、または気が遠くなる感じ
9 寒気または熱感
10 異常感覚(感覚麻痺または熱感)
11 現実感消失(現実ではない感じ)または離人感(自分自身から離脱している)
12 抑制力を失うまたはどうかなってしまうことに対する恐怖
13 死ぬことに対する恐怖
American Psychiatric Association(監訳:高橋三郎、大野裕、訳:染矢俊幸、神庭重信、尾崎紀夫、三村將、村井俊哉)、「DSM-5 精神疾患の分類と診断の手引」、医学書院(東京、2014)
これらを見ると、パニック発作の内容にはかなり様々な症状があることがわかります。これらの症状がいくつか組合わさったりして、「パニック症/パニック障害」の様相を表していることが考えられます。
原因ははっきりとはわかっていませんが、「扁桃体」の誤作動など、本来危険ではない状況下において不安が強くなりやすい性格特性や実際に気分が悪くなるといった経験が関わっていることが多いようです。
社交不安症/社交不安障害
「社交不安症の定義/社交不安障害」(DSMー5)については、以下のようにまとめられます。
・他者の注目を浴びる可能性の1つ以上の社交場面に対する、著しい恐怖または不安。例として、社交的なやりと
り、見られること、他者の前でなんらかの動作をすることが含まれる
・その人は、ある振る舞いをするか、または不安症状を見せることが、否定的な評価を受けることになると恐れて
いる。
・その社交的状況はほとんど常に恐怖または不安を誘発する。
・その社交的状況は回避され、または、強い恐怖または不安を感じながら耐え忍ばれる。
・その恐怖または不安は、その社交的状況がもたらす現実の危険や、その社会文化的背景に釣り合わない。
・その恐怖、不安または回避は持続的であり、典型的に6ヶ月以上続く。
・その恐怖、不安、または回避は、臨床的に意味のある苦痛、または社会的、職業的、または他の重要な領域に置
ける機能の障害を引き起こしている。
▶︎該当すれば特定せよ
パフォーマンス限局型:その恐怖が講習の面前で話したり動作をしたりすることに限定されている場合
American Psychiatric Association(監訳:高橋三郎、大野裕、訳:染矢俊幸、神庭重信、尾崎紀夫、三村將、村井俊哉)、「DSM-5 精神疾患の分類と診断の手引」、医学書院(東京、2014)
社交不安症は、発症年齢平均が13歳と低く、また7人に1人は一生のうちに社交不安のなると言われています。そのため、病院にかからずに性格特性として捉えられることも多くあります。
その一方で、自然に治るということはなく、その経過は慢性的になっていくことが知られています。発症の原因としては、「脳内の情報伝達物質の乱れ」と「元々の性格特性」の2つが考えられています。